神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

計算代数手法による統計学のブレークスルーを目指す

数学科・数学専攻 計算数理教育研究分野 青木 敏 教授

青木 敏 教授  私たちの周囲の多様なデータから、客観的、科学的な結論を導き出すために欠かせないのが、統計学です。例えば、新しく開発した医薬品の効果を確認するために、臨床試験を行って、「効果がない確率」の小ささを計算するのは、統計的検定とよばれる手法です。このときの確率の計算のために、従来は漸近分布論とよばれる、標本のサイズが無限に大きい場合の近似を利用してきました。これは手軽に利用できる有用な手法ですが、標本のサイズが小さいときや、大規模なデータであっても次元が大きいときなどには、近似の精度が悪くなります。このような難点を克服するために、ここ20 年で急速に発展してきたのが、計算代数的な手法です。

 私の専門である計算代数統計は、その名前の通り、計算・代数・統計の3つが融合した研究分野です。統計的検定では、求めたい確率を、マルコフ連鎖モンテカルロ法という手法で数値的に計算します。その際に、標本空間上の連結な推移基底(マルコフ基底)が必要となりますが、これをグレブナー基底という代数学の理論から得ることができます。計算代数統計は、計算機の発達を背景に、短期間で急速に発展しました。今では、簡単な統計モデルであれば、手元のパソコンで手軽に出力を確認できることは、この分野の大きな魅力のひとつです。一方で、近年、大規模データが入手できるようになり、扱う統計モデルも複雑になったことで、新たな研究課題が生まれています。新たな課題の克服が、次のブレークスルーへと繋がることを目指して、私は日々、研究に取り組んでいます。

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