神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

海域での観測から固体地球のダイナミクスを探る

惑星学科・惑星学専攻 観測海洋底科学教育研究分野 島 伸和 教授

島 伸和 教授  地球の表面は、海洋と大陸でおおわれていて、水の存在が惑星地球を特徴づけています。水は、地球の高度差がある場所として単に海と陸に分けるだけでなく、構成岩石の異なる海洋底と大陸の成因にも大きな役割を果たしています。海洋底が拡大している海底拡大系では、海洋地殻と共に海洋リソスフェアが形成され、この海洋リソスフェアが、固体地球内部の大循環の主要な部分を担っています。私は、この海洋リソスフェアが引き起こす固体地球の諸現象と惑星地球を特徴づけている水の役割に注目しています。水は、100ppmレベルの少量でもマントルに入ると、その水によってマントルの粘性を下げたり、マントル岩が溶ける温度を下げたりすることが、岩石を使った室内実験により明らかにされています。実験室で示されたこのような性質の水が、実際の地球では、どういう分布をしていてどのような役割で、海洋リソスフェアの動きに伴って固体地球の諸現象に影響を与えているのかを、地球物理学的な観測事実にもとづいて明らかにすることを目指しています。

 マントル内の水の量は直接測定することができないので、替わりに電気の流れにくさである比抵抗を指標として利用します。マントルに水が入ると電気が流れやすくなり、比抵抗値が小さくなるからです。海底下のマントルの比抵抗構造を調べるために、開発した観測機器を多点の海底に設置して数ヶ月. 2年の電場と磁場(地磁気)の変動を観測します。このデータを解析することで、海底下の数100kmもの深さまでのマントル比抵抗構造を推定するのです。

 海底拡大系では、マントル岩が部分溶融することにより、海洋地殻を形成します。実際に海底拡大系での電磁場観測データを解析した結果から、海底拡大軸の直下のマントルには、岩石の部分溶融を示すと考えられる極端に低い比抵抗値を示す領域が広がっていること、またその領域の広がりや状態が海底拡大系により異なっていることを明らかにしてきました。さらに、水を含んでいないと解釈される高い比抵抗値を示す海洋リソスフェアが形成されている姿もイメージングできました。水は固相から溶融した方に移動する性質があることを考えると、この結果は、部分溶融を起こす海底拡大系は水がマントルから抜き取られる場所であり、そこで水を含んでいない高い粘性の海洋リソスフェアが形成されていること示しています。一方で、海溝では、沈み込んでいく海洋リソスフェアにより水がマントルに輸送されて、約100kmの深さで海洋リソスフェア直上のマントルに脱水したと解釈できる低比抵抗領域もイメージングできています。この脱水した水によりマントル岩の溶融を促すことで、島弧火山や背弧の海底拡大系といった活動に影響を与えています。

 昨年より、島弧火山であり巨大カルデラ火山でもある鬼界カルデラの海域調査を始めました。神戸大学の練習船「深江丸」に調査船としての機能を装備し、航走しながら音波を使って見えなかった海底や海底直下の姿を可視化したり、「SHINDAI-2K」と呼んでいる小型の無人探査機を送り込んで海底の状態を観察したり、観測機器による海底での長期連続観測を実施したりすることで調査を進めています。さらに、新しい観測機器を開発することで、これまでにない海底観測を実現していきます。これらの観測から新たな観測事実を得ることで、巨大カルデラ火山のマグマ形成とその活動プロセスの理解を進める計画です。

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