神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

分子を並べ、新しい機能を創出する

化学科・化学専攻 固体化学教育研究分野 高橋 一志 准教授

高橋 一志 准教授  私たちの身の回りの物質は、様々な元素からできています。元素の種類は100種類程度であるのに対し、物質の種類は、データベースに登録されているだけでも2019年4月時点で1億4900万個、その数は年々増加の一途をたどっています。物質の中で多くを占めるのが原子が互いに結合した分子からなる物質です。

 皆さんは分子というと何を思い浮かべるでしょうか。窒素や酸素、水素などの二原子分子でしょうか。ベンゼンやメタンなどの有機分子でしょうか。最近では合成化学と計算化学の進展により、分子の性質や構造を予測設計し、合成することも可能となってきました。私たちは有機分子と金属原子が配位結合した有機金属錯体分子の開発を中心に研究を進めています。その大きな利点は、有機分子と金属原子双方の性質を有効に利用できる点にあります。

 分子からなる物質の中にも、電気を流すもの、磁石になるもの、光を発するものなど様々な機能を持つ物質が数多くあります。植物などの光合成の反応中心では、様々な分子間の効率的な電子移動反応を利用して光エネルギーから化学合成を実現しています。これらの機能で重要なことは、分子が単独で示す機能ではなく、複数の分子が集合体となってはじめてあらわれる機能であることです。これらの機能では、分子と分子の間の様々なやりとりが重要であり、分子同士がどのように配列するかに強い影響を受けます。しかし、設計通りの分子配列を持つ分子性物質を合成することは現在の技術を持ってしてもチャレンジングな課題です。

 私たちは、分子配列制御という課題に取り組むために分子間相互作用に注目しています。分子間相互作用というと、水素結合やファンデアワールス力を思い浮かべる人が多いと思いますが、強いものから弱いものまでいろいろな分子間相互作用があります。分子間相互作用パーツを金属錯体分子に適切に導入することで分子配列の制御が可能になると考えられます。図に一例を示しますが、温度や光、圧力などによるスイッチング現象として知られているスピンクロスオーバーを示す金属錯体分子と、電気伝導性を示す金属錯体分子や磁性を持つ金属錯体分子をπ?π相互作用やハロゲン結合相互作用を利用して並べることで電気伝導性や磁性をスイッチする分子性物質を私たちは開発しました。この結果は、単一物質では実現することが難しい電気伝導性や磁性のスイッチング機能を分子配列制御により実現可能であることを示したものです。このように、これまで知られている機能を凌駕する分子性物質やまったく新奇な機能を持つ分子性物質の開発を夢みながら、これまで世の中にない新しい分子性物質の合成を続けています。

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