神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

レーザー光で分子を探る

化学科・化学専攻 分子動力学教育研究分野 笠原 俊二 准教授

笠原 俊二 准教授  私たちの身の回りの物質は様々な分子から構成されています。個々の分子の形や変化はどのように知ることができるのでしょうか?分子はとても小さく、ものすごく速く運動しているため、観測することは困難です。分子を探る有力な方法の一つに、光を道具として分子を観測する分子分光学があります。分子に光を当てると光の吸収・散乱・放出など様々な現象が起こります。これらの観測可能な現象は光と物質(分子)との相互作用によって生じ、具体的にはスペクトルとして観測することができます。スペクトルという言葉はニュートンが太陽光線をプリズムで観測したときに初めて用いましたが、その時は可視光線を音階になぞらえて7色に分解しました。色の違いは分子が受け取るエネルギーの違いでもあります。分子はそのエネルギーを、電子のエネルギー・各原子の振動エネルギー・分子全体の回転エネルギー・分子全体の並進エネルギーとして持っており、それぞれの分子はそれぞれ固有のエネルギー状態にあります。そのため、分子のスペクトルは種類や状態によって固有のものであり、スペクトルから分子の情報を得ることができます。

 私たちのグループでは、極めて単色性の良いレーザー光を利用して分子のスペクトルの精密観測を行っています。可視光線を7色ではなく数億色に分解してそのうちの1色だけを選んで分子に照射することが可能です。こうした非常に分解能の高いスペクトル観測を通して光励起した分子の状態を特定して、電子状態・振動・回転の様子から分子構造を決定するとともに、スペクトルの変化から光励起によって不安定になった分子が反応する様子が観測できれば、化学反応についての情報も得られます。

 図に実験装置の一例を示しますが、これは環境問題にもよく取り上げられる窒素酸化物であるNO3ラジカルの超高分解スペクトル計測装置とスペクトルの一部です。真空中に噴出させたNO2とNO3の混合した分子の流れにレーザー光を照射してNO3ラジカルの励起状態のみを選択的に観測した結果、幾つもの励起状態が混ざり合ってスペクトルが複雑化していることを見出し、反応性に関する重要な情報を得ることに成功しました。こうして化学反応のスタート地点である励起状態の精密計測による情報収集を行い、化学反応を理解して制御することを目指して、新たな装置の開発や観測に取り組んでいます。

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