神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

遺伝子解析で探る海藻類の進化と系統地理

生物学科・生物学専攻 進化・系統研究分野 川井 浩史 教授
羽生田岳昭 助教

(左)川井浩史教授(右)羽生田岳昭助教  すべての生物は長い進化を経て誕生したものであり、さまざまな生物種が一定の分布範囲を持って生活している。現在の生物種の分布がどのような歴史的過程を経て成立したのかを探る研究は系統地理学と呼ばれている。海藻類は骨や殻などの硬い組織を持った動物や陸上植物と較べると化石として残りにくいことから、その進化の道筋や系統地理を明らかにすることは困難であった。しかし遺伝子のDNA 塩基配列などに基づく分子系統学的解析の急速な発展により、海藻類の分類や進化の解明、さらには系統地理学的解析において大きな進展があった。われわれの研究室では、早くから遺伝子マーカーを用いた海藻類
 の進化の研究を行ってきており、例えば沿岸域生態系の主要な構成要素となっている褐藻コンブ類が西太平洋の日本の近海で誕生し、多様化・大型化しながら世界中に広がっていったことや、そもそもコンブ類などの巨大な褐藻の進化には大陸移動に伴う大規模な気候変動が関わっていた可能性を明らかにしてきた。一方、人為的な影響による生物の越境移動(外来種)の問題も、きわめて短い時間に起こった生物の分布拡大とみることができることから、系統地理学と同じ手法を用いて海の外来種の起源や拡散経路を明らかにする研究を行っている。この一連の研究では、北東アジアを原産地とする褐藻ワカメや緑藻アナアオサなどが、いつどのようにして外来種として世界中に広がったのかについて明らかにしてきたほか、東日本大震災による津波漂流物に付着して北米大陸へ漂着した海藻類の移入を早期に検出し、その影響を軽減するための研究も現地の研究者と協力しながら進めている。

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