神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

光合成生物の光エネルギー利用法をリアルタイムで追跡する

化学科・化学専攻 状態解析化学研究分野 秋本 誠志 准教授

秋本 誠志 准教授  光合成生物は、タンパク質中に存在するクロロフィルやカロテノイドなどの色素を用いて、光エネルギーを吸収します。吸収された光エネルギーは、分子のエネルギーとして色素間を移動し、電子の流れへと変換を行う反応中心に集められます。このエネルギーが移動する過程は、10兆分の1秒(100fs)から10億分の1秒(1ns)の間に起こります。私たちの研究室では、エネルギーが色素間を移動されていく様子を実時間で観測する装置を作製し、光合成生物がどのように光エネルギーを利用しているかを調べています。

 光エネルギーを利用して二酸化炭素と水から糖と酸素を生成する光合成反応は、20数億年前に始まったと考えられています。現在に至るまで、様々な地球環境の変化がありましたが、その変化に適応しながら光合成が続けられてきました。陸上で生活をする植物は、主に、2種類のクロロフィルと数種類のカロテノイドを利用しています。水中で生活する藻類の中には、陸上植物とは異なるクロロフィルやカロテノイドを使うものがあります。また、最近では赤外光を利用することができるクロロフィルも発見されています。このように、様々な色素を使い分ける利点は何でしょうか?

 太陽光は、光合成反応のエネルギー源となると同時に、光合成生物にとっての最大のストレス源ともなります。過剰な太陽光が降り注いだ時、あるいは、温度や栄養成分などの変化により太陽から得たエネルギーをうまく利用できない状況になった時、光合成反応に使われなかったエネルギーは細胞破壊の原因となります。光合成生物は、環境の変化に応じて、光エネルギーを使う方法と光エネルギーを捨てる方法を使い分けています。使うか、捨てるか、エネルギーの流れは、100億分の1秒(100ps)以内に決定づけられます。様々な環境ストレス下に置かれた光合成生物中でのエネルギー移動を測定すれば、どのような色素をどのように並べれば良いかなど、環境変化を生き抜くための方法を調べることができます。

 光合成は、環境維持や食糧供給など、地球上の生命活動を支える重要な役割を担っており、様々な視点から研究が行われています。化学という研究分野に居ながら、光合成研究を通して、異なる分野の研究者と交流することも楽しみのひとつです。

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