神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

光合成をやめた植物の不思議な生活

生物学科・生物学専攻 生態・種分化教育研究分野 末次 健司 教授

末次 健司 講師  皆さんは「植物の特徴を挙げてください」と聞かれた場合、どのように答えるでしょうか。多くの人が、「光合成を行うこと」を挙げるのではないでしょうか。しかし、植物の中には、光合成をやめ、キノコやカビの仲間から一方的に栄養を搾取して生きているものが存在します。こうした植物の生き様の解明が、私の主な研究テーマです。

 光合成をやめた植物は、ほかの植物が生息できない真っ暗な環境でも生存可能になりました。しかし、暗い林床での生活は利点ばかりではありません。例えば、彼らが生息する暗い林床にはハナバチなどの花を訪れる昆虫がほとんど生息しませんが、そこで受粉を達成しなければなりません。そのような環境でどのように受粉を達成しているかを調べたところ、クロヤツシロランという光合成をやめた植物は、腐った果実やキノコに擬態することで、幼虫の餌場として利用しようと産卵に訪れるショウジョウバエに花粉を運ばせていることが明らかになりました。さらに、クロヤツシロランのそばに腐ったキノコがある場合、結実率が高くなることがわかりました。つまり、クロヤツシロランは、地下でキノコの菌糸を栄養として取り込んで生育していますが、花粉を運ぶ昆虫を花に誘引するのにもキノコに頼っていることがわかりました(図1)。今後もこうした植物が「光合成をやめる」という究極の選択をした過程で起こった変化を明らかにしたいと考えています。

 また最近では、光合成をやめた植物に限らず、日本の生物多様性の豊かさを活かし、様々な動植物の生態の解明に取り組んでいます。例えば、ナナフシの卵を、鳥に食べさせたところ、一部の卵が無傷で排泄され、孵化することが明らかになりました(図2)。鳥に食べられてもなお子孫を残す可能性を示す本研究は、昆虫が鳥に捕食されると例外なく死に至るものだという常識を覆すものといえるでしょう。

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