神戸大学 大学院理学研究科・理学部

研究トピックス

POM を用いた多電子移動反応を促進・触媒する物質の開発

化学科・化学専攻 物性物理化学分野 枝 和男 准教授

枝 和男 准教授  都市化の進展や社会の高度情報化などにより世界のエネルギー需要は増々高まっている。しかし、これまで世界のエネルギー需要を支えてきた 化石燃料の資源量には限りがあり、現代社会が化石燃料の枯渇問題に直面していることはよく知られている。 この問題を解決するため、太陽光などの再生可能エネルギーを効率的に利用する技術の開発が望まれている。 多電子移動反応はエネルギーを効率的にエネルギーキャリアに転換・移行することを可能にする反応で、これらの反応を促進・触媒する物質を開発することは、 持続可能なエネルギー社会の実現に多大な貢献をすることが期待される。

 最近我々は、Keggin型ポリオキソメタレート(POM)などの閉殻構造(外骨格により完全に覆われた構造)をもつPOMが多電子・多プロトン移動反応の 実用触媒の有望な候補であることを見出した。これらの POM は前周期遷移金属 M のオキソ酸の縮合によって生成するナノサイズのアニオン性金属酸化物クラスターで、 通常の酸触媒や酸化触媒として工業的に利用されるほど安定性な物質として知られる。これらはその中性の閉殻骨格内部に 様々な原子(ヘテロ原子 X)のテトラオキソアニオンを閉じ込めた構造をとり、ヘテロ原子の種類を変えることによってその物性を制御することができる。 そして、これらは高い対称性をもち、等価な多数の付加サイトへ構造を壊すことなく電子やプロトンを付加することができる。 我々の研究によると Keggin 型 POM の場合、小さな正電荷で、イオンサイズが大きいカチオンをヘテロ原子とする時、4 電子が一度に移動する 多電子移動を発現することが示唆される。 これは、(1) POM 中のテトラオキソアニオンのヘテロ原子が小さな正電荷をもつ程、 POM の電荷は負に大きくなり、塩基性が高まる結果、電子付加の際に共役的なプロトン付加を起こしやすくなる効果と (2) ヘテロ原子のイオンサイズが大きい程、テトラオキソアニオンの酸素原子が電子付加サイトである遷移金属原子に押し付けられる状況となり、 その接近した酸素の電子吸引性のため遷移金属原子上の電子密度が下がり、電子付加が容易になる効果によるもので、この二つの効果が 相乗的に起こるとき後発の電子付加が電位逆転を起こし、多電子移動が発現する。 更に、骨格拡張した閉殻構造の POM ではより多くの電子が一度に移動する可能性がある上に、より広範囲にわたる軌道間の相互作用のため、 触媒機能の向上も期待できる。我々は、多電子移動を促進・触媒する安定な物質の開発を目指し、そのような新規の閉殻構造 POM の合成に取り組んでいる。

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